花
蓮は何も訊かなかった。
ただ″ぽんぽん″と和の頭を撫でて、
和が泣き止むまで、側に居てくれた。
「授業 出られる?
大丈夫?」
お昼休みが終わる頃、
ようやく落ち着きを取り戻した和を教室に送りながら、蓮が言った。
「帰り、迎えに行くよ。
…一緒に帰ろ。
それとも、俺じゃ嫌かな?
藤崎ちゃん呼ぶ?」
このまま教室に帰って貴史の顔を見るのも嫌だったが、
今は凛の名前も、聞きたくは なかった。
″藤崎ちゃんの方が良ければ、迎えに行って貰うように云っとくよ″と言う蓮に、
和は反射的に″先輩がいい″と、答えていた。
「ほんと?
…よかった♪
んじゃ、また後でね!」
嬉しそうに笑う蓮を見て、
和は少し、気持ちが和らぐのを感じた。
蓮が去って行くのを見送って、
できるだけ その ほんわか した気持ちが続いているうちに、と
勢いで教室のドアを、開ける。
貴史を見たくなかったから、教室を見渡さずに席に着き、
そして そのまま授業が始まるのを、待った。
「…ねぇ、貴史くん戻って来ないんだけどぉー」
その時、ふいに不機嫌そうな女の子の声が耳に飛び込んで来て、
和は見まいと決めていた貴史の席の方を、見た。
それから教室も、ぐるりと見渡してみた。
…そして見なければ よかった、と思った。
女の子の言葉通り、貴史は居なかった。