母子受難


それから母は突然に顔付きを変え、兄の机の隣に机を並べて勉強している私に言うのだ。

「いい? 康子、お兄ちゃんの勉強の邪魔をしたりしたら、駄目よ。お兄ちゃんは、勉強に集中したいのよ。わかった?」

どこか誇らしげにそう言う母の顔を、私は軽蔑の眼差しで見詰めた。
母は決して醜い顔ではなかったけれど、いつも人を見下す様な目付きをしていた。
傲慢さを、いつも目の奥にギラギラと輝かせていたのだ。
その無駄な輝きが、母の顔付きをひどく下品な物にしていた。

……下品。

その言葉は、どんな形容詞よりも母にはピッタリだった。
母は上品ぶって実家からせびったお金でブランド物を買い揃えていたが、どれもこれもただ派手なだけで趣味が悪かった。
それなのに自慢気に小鼻を膨らませていたのだから、やっぱり母はただ下品でしかなかった。

この人は、兄が言うように、無知で無学で無能なのだ。
その上、呆れるほどに無自覚だ。

私はいつも、母のそんな姿を見ながら、無自覚である事が人間の一番の罪である様に思えてならなかった。


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