母子受難


けれどもそんな状況の中でも、母は自殺未遂などは一切やらなかった。

兄の気を引くために『死んでやる』と叫んで見せる事はあっても、実際に自殺へと向かう事はなかったのだから、やっぱり自分可愛さの演技、ポーズでしかなかったのだ。


私が思うに、母は確かに可哀想な人だった。
けれどもやはり、それは自業自得でしかなかったのだ。
母の行いが母を孤独にし、母の無自覚さが母を不幸にした。

それによって、愛する兄からも引き離されてしまう事となった。

実際、母が病院へ入る決定打となってしまったのは、思い余った母が、兄の会社で鋏を振り回した事にあった。
私には、それもただの母お得意のポーズであった様に思える。
なので幸い、怪我人もなかった。


そうして母はそのまま、兄を失った不幸のまま病院の中で心不全のために死んだ。

あのしつこい性格の母が余りにも呆気なく死んだのだから、私には何だか信じられなかった。
母の死に顔を見ても、何だかすぐにでもモゴモゴと唇が動き出して『ヨシくん、ヨシくん』と騒ぎ出し、一瞬でパッと目が見開かれ、傲慢さが輝き出しそうであった。


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