シュガー&スパイス
「スーツじゃない……」
「スーツ?」
キョトンと首を傾げた千秋に合わせて、無造作にセットされた髪がふわりと揺れた。
そう。
目の前にいる彼は、なんともカジュアル。
袖をたくし上げたギンガムチェックのブルーのシャツに、タイトなベージュのパンツ。
ホストってスーツメインじゃないの?
今時って、違うのかな……。
って、そんなこと今はどうでもいいや……。
ちゃんと、英司から理由を聞かなくちゃ。
あたしに悪いとこがあるなら、なおして……、もう一度考え直してもらえるように……。
「……仕事、頑張ってね」
「え?」
千秋に会ったことで、さっきまで鉛をつけたみたいに重たく感じていた足を踏み出すことが出来た。
まだやれる。
あたし、まだ頑張れる。
「ちょ、待って!」
背を向けると、鞄を持っていた腕がすぐに掴まれた。
え?
振り返ったあたしを見て、千秋が気まずそうに宙をあおいだ。
「あ、えー……と」
そう言いながら、またあたしに視線を合わせた千秋。
街のネオンで照らされた七色の千秋が、遠慮がちに笑った。
「俺の店においでよ」