シュガー&スパイス
柔らかそうな真っ黒な髪。
無造作にセットされたその前髪の隙間から、伏し目がちの目が見える。
長いまつ毛の奥の眼差しは、真剣そのもの。
長くて華奢な指が、あたしの髪をすく。
ぼんやりとその姿を眺める。
あ……
なんか、この人の指……。
「うん、思った通り」
「へ?」
いきなりのその言葉に、思わず変な声を出してしまった。
目をパチクリさせるあたしを鏡越しに見て、意地悪に笑うと千秋。
そして、そっと髪を持ち上げて見せた。
「手入れ全然してねーっしょ」
「え?」
「ちゃんとケアしてる?」
「ケアって……トリートメントしてるよ」
胸まである髪は、自慢できるものじゃない。
それは自分でもわかってる。
カラーとドライヤーの熱に負けてるなって思ってた。
それに加えて、髪の量も多いし、太くて固いから雨の日なんか最悪。
千秋はそれから一言も話さないで、黙ってハサミを動かしてる。
小さな店内に、チョキチョキって小気味よい音だけがこだまする。
チョキ
チョキ チョキ
それは、まるで呼吸。
千秋の吐息を耳元で感じる。
不思議だけど、心が落ち着いていく気がした。