シュガー&スパイス



「ゴクッゴクッ……プハァ! ……ふざけんじゃないってのよ!」



ダン!

持っていたビールジョッキを、思い切りテーブルに置いた。


「意味がわかんない、いきなりなに!? 別れようなんて、そんな一方的な終わりある? なんの前触れもなく? 本当に……?
ほんとうに……前触れ……なかったかな……」


薄暗いオレンジ色の照明が落ち着いた雰囲気のバー。
ほぼ満席で、あたしの大きな声に他の客がちらほらとこちらを見た。


それぞれのテーブルをほのかに照らす程度の照明は、なんだか艶かしく感じた。

周りを見渡すと、カーテンで仕切られた個室には、カップルばかり目につく。


「……くやしい。うぅ……」


なんだか無性に虚しくなって、まだ半分残っているビールを口に運ぼうとしたその時だった。

それは、いとも簡単にあたしの手から抜き取られた。





ちょっとぉ、何すんのよー。

眉間にシワを寄せてその手の主を睨む。


今のあたし。
すっごく悪い顔してると思う。



「菜帆って、飲むと泣き上戸になんだね」




カウンターに並んで座る千秋が、呆れたようにそう言って苦笑した。




……む。




「うっさいな。ほっといて。もう、ビール返してッ」

「ダメ。 つか、飲み過ぎだろ」

「そんな事ないもん!まだ飲める!」

「……」



驚いたように口をつぐんだ千秋の手から、再びジョッキを奪い返し、あたしはそれをグイッと飲み干した。



ゴクン。



それにしても……。


< 107 / 354 >

この作品をシェア

pagetop