シュガー&スパイス

胸の奥が、ズンって急に重くなった。

息も出来なくて。

今、ここで、英司とふたりきりって事をすごく意識して……。



どうしよう……。

あたし、全然戻れてない……。


前に進めてないじゃん……。





右隣に全部神経が集中しちゃってるみたいに、ビリビリ痛い。


だ、ダメだ……


逃げたい……。





手にグッと力を込めた、その時。




「水ちょーだい?」





……え?



いきなり頭上で声がして、ハッとして顔を上げた。





あ……。






いつの間に帰ってたんだろ……。

見ると、タオルで無造作に濡れた髪を拭く千秋がいて。





「みーず」




そう言って、あたしの手からペットボトルを抜き取った。





「あれ? 菜帆まだ泳いでねーの?」

「え?」

「ニモいたよ。な、菜帆も見に行こ」




千秋は強引にあたしの手を引くと、海に引っ張った。

そしてそのまま、持っていたマスクをあたしに手渡す。


え、あれ?



「ね、ねえ、千秋のは?」




そう、これって千秋が使ってた奴。

人数分あるんだろうけど、今のとこ他のは見当たらない。




でも、千秋は戸惑ってるあたしなんかお構いなしで、さっさと海に飛び込んだ。




ザバァーン




水しぶきが上がって、思わず顔を背ける。



「菜帆っ」




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