シュガー&スパイス

「あ、コレ……」

おずおずと握りしめていた携帯を差し出す。
千秋は「ああ、ごめん」と言って、それを受け取った。

瞬間、触れた指先。


「……っ」


カタン!


思いのほか大きな音を立てて、携帯がふたりの手の隙間から床に転げ落ちた。

かあああって顔がアツくなる。

う……情けない。


ほんの少し、紙切れ一枚程度指が触れただけなのに、あたしの身体は異常すぎるくらい反応した。

あはは、やだなもぅ……。
二ヘラと笑いながら、携帯を拾ったその時。


「手が滑っちゃった……ごめん……あたっ」



体を起こしたその時。
頭に小さな衝撃が走る。

眉間にシワを寄せてその瞳をグッと細めた千秋が、目が合った瞬間、ぶはってイジワルに笑った。


えっ


「な、なにす……」

「言うコト聞かない子には、お仕置き」


は?
な、なにそれ!

文句を言ってやろうと口を開くと、かぶせるようにそれを遮った千秋。
そして、胸まである髪をかき分けて千秋の手が頬に触れる。


ドクンドクンって物凄い勢いで加速を始める心臓に、アルコールも加わって目眩が起きそうだ。

せっかく拾った携帯が再び滑り落ちそうになる。
それを千秋はあいた手で抑え込むと、グッと自分の方へ引いた。


「わっ……え、ちょ……」


いきなりの事にパニックになっていると、千秋の低い声が鼓膜をくすぐった。


「俺さ、前に言ったよな?友里香には気をつけろって」

「……で、でも……」


友里香さんは、ただ英司の事を想って……。

何も言えず口ごもるっていると、頬に触れていた手がスルスルと動き、唇をなぞる。


ドッドッドってありえないくらい、鼓動を刻む心音は、きっと千秋にも聞こえてるはず。

それくらい、耳の奥を激しく鳴らしていた。




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