シュガー&スパイス

「君は……、千秋が私たちと血の繋がりがない事は知ってるね?」


静かに頷いて見せた。
お父さんはそれを確認すると、ニコリと微笑んだ。


「自分の唯一の家族だった母親が亡くなって、まだ幼かった千秋の心のより所は、なくなってしまったのかもしれない。今まで私はアイツに心を開いてもらえた事はなかった」


そう言って寂しそうに笑う。

もっと頼ってもらいたかったと、そんなふうに言うお父さんを、直哉君は複雑な表情を見つめている。


「これくらいしか、私に出来ることはないんだ。
千秋に後を継いでもらって、直哉と私でサポートする。こんなふうにしか出来ないダメな父親だと君は笑うだろう。
千秋の幸せを考えて、その為に何が出来るか考えた時、私にはこうする事しか思いつかないんだ」



……。







それから、どうやって帰って来たんだろう。

どうやって、彼らと別れて。
どうやって、会社から出て来たのかも思い出せない……。




でも。

ただずっと

胸が痛くて

潰れちゃいそうで。


足が鉛をつけたみたいに重いんだ。



ズキン ズキン


痛い……

気が付くと、かかとに靴擦れが出来ていて。
赤い血がジワリと滲んでいた。


―――我に返る。



屈んでヒールを脱ぐと、大きな傷が出来ていた。

あはは……
夢中になってて気づかなかった。



視界が滲む……。

ああ、なんか泣けて来た。

これは、この靴擦れのせいだ。

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