シュガー&スパイス


どれだけそうしていたんだろう。

時計の針が、時を刻む音だけが聞こえる。



コチコチコチ


――……ピチャン



キッチンの流しからかな。
水の下たる音も。

それから、時々バイクのエンジン音がアパートの前を通るだけで。


静かなもんだ。

こんなに静かだった?



隣から人の気配がしないって……。
寂しい……。


まるでこの世界の中で、たったひとりきりになってしまったような。
そんな気さえしてしまった。



「……メイク、落とさなきゃ……」


手元に転がっていたバッグを手繰り寄せ、重たい体を起こした。


――カシャン

小さなビーズのバッグから転がり落ちた携帯。
ぼんやりとそれを拾い上げると、ランプが点滅していた。

画面をタップして見ると、お母さんからのメールだった。


【年末は帰ってくるの?その時は千秋君も連れておいで】


……だって。ふふ。

お母さん、それ無理かも。

千秋、結婚しちゃうんだって。
あたし、またダメになっちゃったみたい。


喉の奥がジワリと痛くなる。
胸の奥も、針が刺さったみたいにツキツキ痛む。

でも、涙は出なかった。

頬が突っ張る。
そっと手で触れてみると、パリッと乾燥していた。


メール画面を閉じて、やっと今の時間を知った。


「……8時……」


あたしは、どうやら2時間以上もぼんやり座ってたみたいだ。

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