シュガー&スパイス

ひ、っこし……た?


千秋が?



「いつ……ですか?」

「菜帆ちゃん聞いてなかったの? お昼にはトラックが来てね?ほんの1時間ほどで作業も終えてしまったの。今はもぬけの殻。また寂しくなっちゃうわね」



うそ……。

そんな事ひとことも……。


今朝車に乗り込むときに、何か言いかけてたけど、それだったの?

部屋を出るって……。
そう言おうとしてた?

だったらはっきりそう言ってくれたら……。


……。


「じゃあ、おやすみなさい」


あたしそれだけ言ってドアノブをグッと掴むと、部屋に飛び込んだ。




――……バタン

乾いた音が小さな部屋に、虚しく響く。


そのままトンと、ドアにもたれかかる。


もう、足に力が入らなかった。
なにかに掴まっていないと、立っていられない。


「……なん……で……」


ズルズルと崩れ落ちる。

そのままペタンと床に座り込んだ。


「なんでぇ?……ち、あき……」



なにも言わず……。



あなたまで、あたしの前から
いなくなるなんて……。


滲む世界。

あたしは次々と零れ落ちる涙を拭くことも出来ずに
茫然と薄暗くなる部屋を見つめていた。




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