シュガー&スパイス

前に……。

どこかで……。



顔を上げると、いつのまにか森の出口まで来ていたようだ。

痛みを我慢しながら立ち上がって、ゆっくりと歩く。

すぐに森を抜けて、視界が開けた。



「……ついた」




飴色の両開きの扉を開けると、
木製のそれは、重々しい音をあげてゆっくりと開いていく。


中は相変わらず真っ暗で、でも大きなステンドガラスから注ぐ淡い光が、うっすらと辺りを照らしていた。

この前と違うのは、今夜は月が見えなくて、重たい雲の絨毯が覆っているって事だ。



コツ コツ



ゆっくりと扉を閉めて、バージンロードを進む。



「……」



誰もいない。


シンと静まり返ったそこは、ここが都会の真ん中だという事を忘れてしまいそうだった。

小さなマリア像が、穏やかに、あの時となにも変わらずにあたしを見下ろしている。


そこから視線を落とし、長椅子を見た。


千秋が座っていた、あの場所。


そこは主を失ったままで。
誰かがいた気配さえも感じない。


千秋は、ここには来ていないんだ……。




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