夫婦の始まりは一夜の過ちから。
それなのにアイドルの顔を見ていると、素直にアパートがある地区の名前が言えなくて。
「この辺りなの」
「本当…?」
「うん。運転手さん、次の信号を過ぎた路肩で停車してもらえますか?」
そんな言葉を口にしていた。
それからタクシーは私が言った通りに路肩に停車しゆっくりと扉が開く。
「家まで送ってけなくてごめんね」
「いいからいいから。早く仕事先向かった方がいいよ」
最後の最後まで申し訳なさそうに謝るアイドルを見ていると笑みが溢れてくる。
突然笑い出す私を見てキョトンとするアイドルがどんどん遠ざかり。
「はぁ」
交差点を曲がりタクシーが見えなくなった事を確認し溜め息を吐きながら頬の力を抜いた。