夫婦の始まりは一夜の過ちから。
じわじわと実感してきて、ガタガタと震えだす手足。
それでも受話器だけは落とさないようにとしっかり両手で握ったのは、冷静な自分が僅かだけどいるという証拠で。
その僅かに残る冷静な自分に頼らなきゃいけない。
少なくとも壱が意識を取り戻すまでは…
「はい…。今すぐ向かいます」
―――バタンッ―
受話器を元の位置に戻し、すぐさま財布と携帯と鍵を持って玄関を飛び出した。
なかなかエレベーターが来なくて、なんでよ!とエレベーターに怒鳴りたくなる。
「冷静にならなきゃ…」
今こんな場所で泣き叫んだって意味がない。
壱はきっと大丈夫。
そう唱えるようにぶつぶつ呟きながらエレベーターに乗り込んだ。