夫婦の始まりは一夜の過ちから。
そしてそんな下戸な人間である私はというと、今の所は乾杯時の一口しか飲んでいなく、心配する事にはなってなくホッとしている。
――と思った矢先。
「君は中谷くんだっけ?」
「はい。中谷夏芽と申します」
「全然飲んでないよねぇ。遠慮せずどんどん呑んだらいいのにねぇ」
と言ってきた春風さんに思わず私は目を見開く。
そんな事言われてもどうしよう、と考えながら助けを求める様に視線を上司に向ければ、
「春風さんも言って下さってるようだし」
え、え、え〜っ。
上司は飲みなさいと訴えてくるのみで、冷たい汗が背中をツーッと流れていくのが分かった。
「いえ。あ、あの、私は…」
「んー、麦の水割りってとこかな」
麦の水割り…?
「好きでしょ」
「麦の水割りですか」
「そ君の見た目からして麦の水割りを好んでそうだよねぇ。違うかな?」