消えない、消せない
 

「…今でも太宰、読むの?」

「読まないよ、最近は仕事が忙しいから。」

「私も…読書、してないなぁ。」

「…なぁ、海に行かないか…?」

「海…? もうシーズンは過ぎたんじゃない?」

「温泉にも行こう、二人で長い休暇を取って。」


 彼女の表情を見れば、慰めの言葉は無意味だと悟った。この運命からは逃れられないのだと、彼女の強い瞳は訴えている。



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