叶多とあたし
うっわ…最悪。


寄りにもよって、席は教卓前の前から二番目。



しかも右隣の席には『間見彼哉』の文字。


彼哉の隣だ。いや…これは嫌じゃないかも。





にやけるのを必死で抑えたら、仏頂面になっていたらしい。



「え、何そんなに俺の隣やだ?」


なんて、笑って尋ねられた。



「…嫌じゃないよ。答えとか見せてもらえるからね」


後半は照れ隠しである。




不意に後ろから声をかけられた。



「遊馬さん?」




振り向けば、黒髪のセミロングに黒縁眼鏡といういかにも優等生な子が立っている。




「やっぱり!私、隣の席なの!よろしくね!」


身を乗り出して彼女は言った。




まるで知り合いのように話しかけてくるけど……


誰?この子。




彼哉を振り返っても彼哉は『知らない』と言わんばかりに首を振る。




あたしと彼哉の目配せに気づいたのか、彼女は乗り出した身を引っ込めて首を傾げた。




「あれ……覚えてない?中学のとき隣のクラスだった、木下沙羅だよ!」




……ごめん…わからない。


でも、聞いたことがある気がするから確かに同じ中学だったのだろう。




「え~!?」



優等生な見た目とは正反対のハイテンションなリアクションを見せた。




「リエコの幼なじみの!一回リエコなんかと少人数でカラオケ行ったことあるじゃない!」




木下沙羅…




木下沙羅…




…………。





「……あああああ!!!」



「思い出してくれた???!」


彼女の表情はパッと明るくなる。



「思い出した!行った、行ったね!カラオケ!!……あれ?でも前は天パだって言ってたよね?毛先クルクルしてて可愛かったのに。眼鏡だってかけてなかったし…」




あたしが前に会ったときはもっと『可愛い』ってイメージの子だったんだけどな……。




「それね!世に言う、高校デビューってやつよ!ストパーかけたの。この眼鏡は伊達。だって、こうしとけばいつイケメンヤンキーに出逢ってもすぐに恋が始められるでしょ?」




嬉々と話す彼女を見て目が点になった。





ここは、漫画の世界かっ!っての!!





そう言おうとしたとき。




ガラガラと音を立てて教室の扉が開いた。




そこで、女子の一部から「きゃあ」という短い黄色い悲鳴が上がる。




それはもちろん、イケメンな若い先生が入って来たから。




しかし、あたしの反応は違った。

別の意味で悲鳴を上げたい。




彼哉は固まった。






なぜなら…






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