ヤサオトコ

 その夜、栗崎の家の電話が静寂を破った。
 栗崎が急いで受話器を取った。


 「はい、栗崎ですが・・・」
 「私、昼間道路で交差した上坂と申します。おわかりでしょうか」

 女性の声がした。


 「あっ、はい。その折は、本当に申し訳ありませんでした」
 「今日お電話しましたのは、バッグの事で・・・」


 「あ、ありがとうございます。拾って下さったのですか」
 「どういたしましょうか」


 「明日の昼休み、交差した場所でお会いできないでしょうか」
 「いいですけど」


 「じゃ、12時30分。ご都合はいかがですか」
 「明日、12時30分ですね」


 「いいですか」
 「それでいいです。では、失礼します」


 栗崎は電話の受話器を置いた。







 
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