すずらんとナイフ


ふぅーと鼻と口から煙をだしながら言う。

「会社でも吸えないでしょう?
やんなっちゃうよ」


ラウンジも含め、会社敷地内は全面禁煙だった。

どうしても煙草を吸いたい社員たちが裏庭の一画に集まり、携帯灰皿を持ち、肩身の狭い思いをして吸っていた。


すずは、史歩の吐く煙で
むせそうになった。


煙草の臭いは苦手だ。
勇希も煙草を吸わない。


(ケム〜…マスクしたーい!)


「史歩、何にする?」

我慢しながら、すずは、三つ折りになったメニューを史歩の方に向けて広げた。


「あ〜とりあえずビール。
あ、私、刺身とかは嫌いなんだ」


「うん。オッケー」

(えー、アボカドサーモン食べたかった…)


焼き鳥盛り合わせ、生春巻き、ピザ、シーザーサラダなどを選び出す。


史歩と二人で料理を選びながら、すずは史歩に遠慮しすぎている自分が嫌になってきた。


史歩はビール、すずはファジーネーブルで乾杯することにした。



(どうせ飲むんだったら、
勇希と行きたいな…)

すずは思う。

車で出掛けることが多い二人は、外で酒を飲むことが殆どなかった。


「ね、すず、
宮古島に彼氏と行ったの?」


ビールを飲みながら、史歩がきいてきた。

「そうなの」


答えながら、すずは警戒した。

(余計な事は、言わないようにしなくちゃ…)


史歩に勇希との関係を気付かれては、面倒なことになる。


「いいなあ!私なんて、全然いいコトない!アレもご無沙汰もいいところだよ。
今日、本当はクラブとか行きたかったんだよね」


「そうだったんだあ、ごめんね…」


(そんなとこ、全然行きたくないし…)


「すずってさ、
どういうところで遊んでるの?」


史歩がまたふうっと煙を吐いた。


「私は……」

言いかけて、すずは軽いめまいに襲われた。

生理日だった上、アルコールと煙草の臭いで気分が悪くなってしまった。



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