すずらんとナイフ
「すず、大丈夫?」
史歩が眉根を寄せ訊く。
「…う、うん。ごめん。
ちょっと、トイレ行ってくる…」
すずは立ち上がり、ふらつく足をどうにか動かして、化粧室に向かった。
誰もいない化粧室に入り、一番奥の洗面台の下にしゃがみ込む。
(ふう…やっぱり、史歩に
煙草やめてって言おう……)
ドアが軋む音がして、誰か入ってきた。
「あの、大丈夫ですか?」
しゃがみ込むすずに訊く。
史歩ではない。
見知らぬひとだ。
すずは両腕に顔を埋めたまま、
何度もうなづいてみせた。
しばらく休んでいるうち、少しずつ気分の悪さが治まってきた。
立ち上がり、化粧台のミラーで自分の顔色を見た。
青白いけれど、なんとか大丈夫そうだと思い、史歩の待つ席に戻った。
テーブルには、オーダーした料理が並んでいて、史歩はすでに箸を付けていた。
「すず、大丈夫〜?」
「うん…なんとか。
史歩、悪いんだけど」
すずは史歩に煙草をやめてもらうように頼み、通りかかった店員に水を頼んだ。
史歩は、少し不機嫌な面持ちで煙草とライターをバッグにしまった。
「あれ…?」
冷たい水を飲みながら、すずはおかしな事に気付く。