彼は人魚姫!
「送って行くよ。もう遅いし女の子は帰ったほうがいい」


お、お、女の子ぉ~?
女の子呼びされたのって、いつぶり?
ちょっと胸の奥がキュッとなる。
もう少し、このままオーナーの顔を眺めていたいんだけど。


「まだいたい?」


「えっ?」


それって、どういう意味ですか?
あたしが『まだいたい』って言ったら、いてくれるの?
それなら、まだいたい…。
でも、『じゃあ僕はお先に』って言われたら。
何だか一人で虚しい。
第一、せっかく送ってくれるって言ってくれてるのに。
この貴重な申し出をふいにするなんて。
うわぁ。どう答えるべき?
あたしはわずか数秒の間に、頭の中で答えのやり取りのシュミレーションをする。


「ダメだよ。もう帰らなくちゃ」


そう言って、オーナーの左手があたしの右手を掴んだ。
優しく、自然に。
ひとつひとつの動作がとても柔らかい。
優しい喋り方と穏やかな笑顔に、ふわぁ~っと包まれて行く。
何だか傍で眠りたい……。


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