彼は人魚姫!
「ちょ、ちょっと、すみません、店の者です。…すみません。通らせて下さい」


若い女性たちをかき分け、店の前に出来ている長い行列の前に押し入ろうとする。
前代未聞。
『Cafe 雫』の前に長蛇の列…。
たぶん、100人はいる。
なんで?
なんで?
いや…、大体の察しはつく。
あいつ。
あいつだ。
あれだけ外に出るなって言ったのに。


思いっ切り開けたドアの向こうは、いつもとは別世界。
満員のお客さん。
何故か甘い香りが漂い、花園のような華やかさと癒しの空間が広がっている。
そして、女性たちの熱い視線の先には…。


ステテコ姿の自称『しぃ』


カウンターに入ってスマートに紅茶を淹れている横顔に、一瞬、クラッとしてしまった。
少し垂れた前髪。
あぁ、その垂れ具合!
その角度がまたカッコイイんだって…。



「あっ、ママ、お帰りなさい」


下から上へと顔を動かし、真っ直ぐあたしを見て笑いかける、しぃ。
もう…。
殺人的。
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