彼は人魚姫!
「すみません」


上品そうな、そう、高音の音を綺麗に出して歌えそうな女性の声が後ろからした。
反射的に振り返る。


「はい…」


うわぁ。声と同じく綺麗な人…。
落ち着いた茶色の肩までの髪。
ゆるいウェーブが風になびく姿は絵になってる。
長い睫毛に優しい目元。
色が白くて、くちびるのグロスが色っぽい。
あたしなんて、グロスなんてすぐ何かと一緒に食べてる。
いや、剥げてしまってる。
それにしても小さな顔。
女優さん?じゃないよね。
それくらい綺麗。
歳はあたしと同じくらいかな。


「ちょっとお聞きしたいのですが」


「はい。何でしょうか」


こんな綺麗な人に頼まれたら、何でも教えてあげたくなる。
でも、たぶん、道を知りたいんだろうな。
知ってる場所ならいいんだけど。


「この人…、この人をご存知ないですか?」


女性はバックから1枚の写真を取り出して、あたしに近付く。
甘い、花のような香りがした。
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