彼は人魚姫!
「あっ…」


心の中で叫んだ。
声には出さなかった。
それは声にしたら、何か言ってしまったら、『今の時間』が変わると一瞬で悟ったから。
決して顔にも出してはいけない。
平静を装うんだ。


「さぁ…。見た事、ないですね。この人を探してらっしゃるんですか?」


「はい…。噂で、この近くにいるらしいと聞いて来たのですが。そうですか。ご存知ないですか…。すみません。お忙しいところ」


明らかにガッカリしている。
丁寧にお辞儀なんてしないで。
胸がズキンと痛む。
あたし………嘘をついた。


写真に写っていたのは、どこまでも爽やかな笑顔光線を放っている『しぃ』。
この写真のしぃは、どこか品のようなものを感じる。
まさかこの人物が、のちに『すっぽんぽん』で海岸に倒れていようとは誰も想像出来まい。


でも、この写真の人物の漂う品…。
あの、ちょっとエロいとこのあるしぃと、同一人物なのかな。
顔は似てるけど、もしかしたら違うかも。
そしたらあたし、嘘ついた訳じゃないよね。
なんて…自分に言い訳してる情けないあたし。
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