音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
第一王子の憂鬱
歴史ある豊かで美しい王国、オスティア。

雲一つない夜空に浮かぶ満月に照らされた王城からは、今宵も優雅な音楽が漏れ聞こえている。

オスティアの王位継承者である第一王子の生誕を祝う式典が間近に迫り、オスティア城では連日開かれるパーティーで、貴族や王国の著名人達がダンスや歓談を楽しんでいた。

その賑わいをみせるパーティー会場とは離れた城の一室で、机に向かう青年が高く積み上がった書類に順に目を通している。

クセのないさらりとした黒髪に深い紺碧色の瞳。その伏せられた瞳を縁取る長いまつ毛と端正な顔立ちは、どこか冷たい印象だが気品を感じさせる。
光沢のある上質なタキシード姿は、彼の洗練された雰囲気を引き立てていた。

その時、書類をめくる音だけがする静かな室内に、規則正しいノックの音が響く。


「入れ」


手にした書類から視線も外さず青年が応えると、開いたドアから背の高い男が入ってくる。

青年よりいくらか年上であろうその男は、礼儀正しくお辞儀をすると安堵の息を吐いた。
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