音楽の女神〜ピアノソナタをあなたに
「…ジェイド様は、優しい心を持った素敵なお方です」

深緑色の瞳を伏せたまま恥ずかしそうに話すエミリアを見つめるジェイドの表情に変化は全くない。

それでも少しの沈黙を破り、エミリアは顔を上げると何かを決心するように真っ直ぐジェイドを見つめたまま、ゆっくりと尋ねる。

「あの…ジェイド様には、心に決めた特別な女性がいらっしゃるのでしょうか?」

「…それは、君の婚約者になるかもしれない男に興味がある、ということか？」

「え？」

「それとも、まだ何も聞かされていない？」

「婚約者、ですか…？…え？」

探るような視線と返された言葉の意味が理解できず、エミリアは大きな瞳で瞬きもせずにジェイドを見つめたまま固まっている。

その様子から、エミリアも父親達の思惑など何も知らないのだと悟る。

「…王子という立場上、軽々しく恋愛感情を持ったりすることはできない。
つまり君の言う特別な女性という相手は、私には存在しない」

「…そう、なのですね」

ジェイドの言葉に安心したのか、強張っていた表情を緩めたエミリアはほっと息を吐く。

嬉しさを隠すこともせず、柔らかな笑みがこぼれた。
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