紅蓮の鬼


「……腑に落ちないことは、ワタシにもある」


彼女が、静かに言った。


「匂いがしなかった」


「……匂い…?」


淋曰く、近くに誰かがいるとかいうのは、気配だけではなく、基本的に匂いで分かるらしい。


今回の場合、近くに人間がいても、何も匂わなかった。


だから奇襲されても、上手く反応できず、このようなザマになったのだと。


「………………」


俺は腕を組んだ。


この国で鬼は、お伽噺や悪霊に出てくるもの。


だから、実在していることなどあり得ないのだ。


そう言い伝えられている明治以降の人間は、生物としての鬼を知る筈がない。


ましてや、居場所などもってのほか。


――これってどう考えても、淋達の情報が


「筒抜けだ」


彼女が俺の思っていることの続きを言った。


淋もこの結論にたどり着いた。


だとすると、この考えは恐らく実在している可能性が高い……かもしれない。




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