いつかの君と握手
「ん……む……?」


目を開けると、布団の中にいた。
見慣れない部屋。どうやら和室であるらしく、見上げている天井には見事な木目が模様を描いている。
頭上にはカーテンの閉じられた窓があり、そこからははほんのりと明かりが差し込んできていた。

朝、かな。
あれ、あたしどうして布団で寝てるんだっけ。
えーと、えーと。
ぼんやりと記憶を手繰る。

ああ、そうだ。
深夜にようやく加賀父を見つけて、部屋に通されて。
そうか、多分そこで寝ちゃったんだ、あたし。

ということは、ここはじいさんの家だろうか。

体を起こして室内を見渡してみる。
6畳ほどの部屋に、布団が2組。
一方にはあたし、その横には寝姿もしどけない柚葉さんがいた。

タオルケットからはみ出ている魅惑的な体は、真っ黒いレースのブラにパンツだけを身に着けていた。
「うう、ん……」と寝返りを打ったかと思えば露わになる真っ白の谷間。ぷりぷりした太腿。

うーん。あたしが男だったら垂涎モノだね。
いい体を朝っぱらから拝ませてもらってすんません。
とりあえずご利益を願って拝んでおこう。

あ。イビキが聞こえる。
隣、かな?

音を立てないようにこっそりと布団をでて、隣室に続いているのだろう襖をそっと開けた。


……うわ。
こっちの寝姿は、きったねえな。

トランクス1枚しか身につけていない三津が、股を開いて高いびきをかいていた。
毛むくじゃらの足が放り出されている。

こちらには布団は3組だ。
右端に三津、左端の小さなこんもりはきっとイノリだろう。
真ん中の布団は、空。

ここは加賀父の布団、かな。


「んっがああぁあぁぁぁ」


三津、うるさっ!
イノリが寝てるんだから、もう少し控えめにしろよ、もう。

ていうか、汚い三津の寝姿をこれ以上見たくない。
こちとら穢れのない女子高生なんだ。
見ただけで目がつぶれる、。

襖を閉めようとしたとき、下から物音がした。
じいさん、だろうか。耳をすませてみる。
いや、三津のイビキだけではなく、もう1人分のイビキが聞こえる。

ということは、起きているのはやはり加賀父か。
そうだ、加賀父なら話をしなくちゃ。

昨日は途中で寝てしまったから、加賀父と何も会話できていないのだ。
色々話すことがあるのに。
今だとイノリも寝てるし、ちょうどいいや。

すうすうと気持ちよさそうに寝息をたてている柚葉さんを起こさないように気をつけつつ、部屋を後にした。

どうやらあたしは2階に寝ていたようだ。
短い廊下を抜け、きしむ階段をゆっくりと降りる。

と、イビキが一際大きくなった。
多分、この部屋がじいさんの部屋だな。
階段横の部屋をちらりと見て、そっと離れた。

居間に向かうと、ふわりと味噌汁の匂いがした。


「あ、のう。おはようございま、す……」


おずおずと襖を開けると、縁側に腰掛けていた加賀父が振り返った。


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