いつかの君と握手
「母親が抜ける代わりに、父親2人が頑張ってって言われたんだ。いやだ、なんて言えるはずないだろう?」


ああ。
こくんと頷いた。そういうことか。

とは言え、大人の恋愛模様っていまいちよく理解できん。
好きな女のお願い一つで、恋敵と仲良く会話できるものなのだろうか。
大澤父にしてみれば、他の男の元に逃げた女の願いなわけでしょ。
納得できるものなのかね。

いや、それを可能にするほどの素敵美女だったということだろうか。
興味が湧くなー、イノリ母。
会ってみたかった。


「なんだ、この子にはそんな話もするんだね」

「まあね。祈をここまで連れてきてくれた、功労者でもあるしね」

「功労者、何て言い方でいいんでしょうか? 余計なことだったんじゃ……」


おずおずと訊く。
大澤父にしてみれば、昨日は不安な1日だったに違いない。
それを考えたら、あたしは叱られて当然なのだ。

しかし、大澤父は首を横に振った。


「余計ではないよ。きみのお陰で祈は無事に辿りついたんだろう。
遅かれ早かれ、祈は俺のところを飛び出してこいつの元に行こうとしたはずだ。
そのときに事故に、など考えたら、恐ろしくてならないよ」

「そう言ってくれると有難い、ですけど」


でもすみません、と頭を下げた。


「なんだ。祈が出てくのが分かってて、手をこまねいてたのか、おまえは。
その頭脳は意外に役立たずなんだな」


加賀父の軽口めいた言葉に、大澤父が顔をしかめた。


「ふん、仕方ないだろう。こっちは誰かのお陰で子どもとまともに暮らした経験がない。どう扱えばいいのかわからないんだ」

「それはすいませんね。しかし、おまえの持ってる本に書いてないのか。子どもとの接し方、とかさ」

「ほう? おまえは本で学んだのか。何て作家の本だ、出してみろ」


ううん、この2人、確かに友人だったんだろうな。
ぽんぽんと会話が弾んでいる。


「で? おまえは祈を早々に迎えに来たのか?」


加賀父の言葉には、とする。
大澤父がここに来たということは、このままイノリを連れ帰ってしまうのだろうか。


「あ、あの! きちんとイノリと話したんですか!?」


つい、加賀父の服の袖をつかんで訊いた。


「イノリが納得するように、話したんですか? あの子の、加賀父と一緒にいたいっていう気持ちは、どうなるんですか!?」

「ああ。まだ話してないなー」


へへ、と笑う加賀父。
呆れた、と大澤父が呟いた。


「祈と話を済ませてないのか、おまえは」


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