いつかの君と握手
「K駅、ねえ。じゃあ、やっぱり人違いだ。あたし、小学校3年のときに父親の転勤でこっちに越してきたんだ。それ以前はここに来たこともなかった」


決定的証拠はっけーん。
どーん、と胸を張ったあたしに対し、大澤は「そうじゃない」と呟いた。


「は? そうじゃないってどうじゃないのさ」


何がしたいんだ、こいつ。
会ってるはずないのは、覆しようがない事実だってば。


「みんな、どうしたのー? 係決めしようよ」


大澤が眉間にシワを刻んであたしを見据えた時、のほほんとした田中くんの声がかかった。


「全部の班に用紙配ってきた。
オレ、学級委員としての仕事があるから、班長はできないんだよね。だから、それ以外の係がいいんだけど。って、どうかしたの?」


あたしと大澤は顔をしかめ。
琴音はおろおろをそれを見ている。
悠美・神楽は田中くんと大澤を見比べてひっそりと盛り上がっている。

そんな状況を、田中くんは不思議そうに見ていた。


「えーと、いや、何でもない」


何て説明したらいいのか分かんない。へらりと笑って見せた。


「係決めだっけ? あたし、何でもいいよ」
「あ。そう? じゃあ班長やってもらってもいいかな、って、大澤、どこ行くんだ?」


大澤はあたしたちから離れて、教室を出て行こうとしていた。


「気分悪いんで、帰る。俺のは勝手に決めていい」


言い捨てて、大澤は苛立ったように教室を出て行った。


「困るな、急に。森先生! 大澤が帰るそうです」
「んあ? 何? 誰が帰るって?」


大きな口を開けてうたた寝(本気寝?)していた森じいが慌てて起きる。
しかしそのころにはもう大澤の姿はなく。


「……どうしたんだろうねえ、大澤くん」


琴音が心配そうに言って、あたしを見た。


「ミャオちゃん、大澤くんのこと知らないんだよねえ?」
「知らない。絶対に会ったことない」


あたしの記憶力は悪くない。
9年前って言われたら確かにあやふやだけど、こっちに来たことないんだから、断言していいだろう。


「そっかあ。だとしたら、大澤くんの知ってるミャオちゃんって、どんな子なんだろうねえ。好きな子なのかなあ?」
「さあね。でも、好きな子だとしたら、間違えんなっつーの」


肩を竦めてみせる。
怒ったりするくらい気になってる子なら、ちゃんと覚えててやれよ。




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