いつかの君と握手
「大澤には困ったなあ。とにかく、係決めちゃおうか」


廊下まで大澤を追いかけていった田中くんは、結局捕まえられなかったらしい。
ため息をつきながら戻ってきた。


「ええと。茅ヶ崎さんは、班長、いいかな?」

「あー、と。うん、いいよ。やる」

「ありがと。班長ってなかなか決まらないんだよねー。放課後に打ち合わせとかあるから、みんな面倒みたいで」

「あたし部活やってないし、放課後暇だから」


琴音はブラスバンド部だし、悠美たちは手芸部。
暇なのはあたししかいないのだ。
あ。大澤も暇、なのか? 部活やってないはずだよね。
まあいいや。あいつ帰っちゃったし。

その後。
残りの係もあっさり決まり、いち早く出来上がった班構成表を書き終えた田中くんは満足そうに頷いた。


「じゃあ、これからよろしく。茅ヶ崎さんも、班長大変だろうけど、頑張ってね」

「へーきへーき。適当に力抜くんで」

「そうだね、そのほうがいいよ」


くすりと笑って、田中くんは首を傾げた。


「そういえば、茅ヶ崎さんってどうして猫娘とかって呼ばれてるの? 猫みたいに気まぐれとか、そういう意味なの?」

「え」


あの時のやりとりを知らない人がいたのか。

少し新鮮な気持ちになった。
そうかー、そういや田中くんってあたしのことちゃんと苗字で呼んでくれてたっけ。


「いや、そんな気の利いた(?)理由じゃないよ。入学式のときに、ちょっと『化け猫』認定されたんで、なし崩し的に?」


へへ、と笑えば、田中くんは益々不思議そうに訊いてきた。


「何で化け猫なの? 茅ヶ崎さん、普通の子なのにね?」


ええ、本当に。もう数ヶ月、そう思ってきましたとも。


「よく分かんないけど、まあ」

「あたしはミャオちゃんって呼んでるんだけど、そっちのほうがかわいいのにねえ」


琴音が言うと、悠美がくすくす笑った。


「でも、猫娘っていうのもかわいいよ? イメージぴったり。だからあのマスコット作ったんだし」


おい、どんなイメージだ。でもまあ、あれはかわいかったので、あんなイメージだとしたら、許す。


「ふうん、ミャオ、かあ」


田中くんはうんうん、と頷いて、


「オレも、ミャオのほうがいいと思う。ねえ、これからミャオでいい? せっかく同じ班になったんだし」


と爽やかに言った。

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