いつかの君と握手
「オヤジの車の中でさ、悪徳商人だからすんげえ利子つけるぞ、って言っただろ。
で、俺はそれでいいって答えた。覚えてないのかよ」

「は…………、ああ! うん、そんな会話したな。うあー、よく覚えてんな!
ちょっと胸が熱くなるわ」

9年も前の、ドタバタしながらの約束を覚えてるって、すごくね?
あたしなんか前日の話のはずなのに、すっかり頭から抜け落ちてたっつーのに。


「あれはさー、あんたが余りにもしょぼんとしてたから、そう言っただけだよ。
利子もらおうなんてセコいこと、本気で考えてないって。安心しなよ」


あはは、と笑い飛ばしたのだが、イノリはまたもや首を振った。


「9年分の利子、つけていい。つーか、つけろ」

「は?」

「悪徳商人レベルでも、極悪代官レベルでもいい。トイチの高利貸し並みにつけろ」

「い、意味わかんないんすけど」


『借り』に利子をたくさんつけろって、何だそれ。
債務者はあたしではなく、あんただぞ?


「2回とは言っても、9年分の利子をトイチでつけたら天文学的な数字になるって知ってる?
あたしに一生捧げるくらいの覚悟が必要になるぞ? あはは」


馬鹿だなー、と笑ってみたのだが、イノリはこくんと頷いた。


「知ってる上で、言ったんだけど」

「あはは、は?」


知ってて、何故。
なになに? 律儀が突き抜けてんの? それともこういうネタが流行ってんの?


「い、いややっぱ意味わかんない。
つーかそういう冗談? にうまく返せないんだけど、あたし」

「入学式の日さ」

「は?」


にゅうがくしき?
どうして唐突に話を変えるかな。


「教室でミャオに会っただろ?」

「え? ああ、うん」

「すげえ驚いた。つーか、少しビビった」


だろうね。
9年前に会った女が、全く同じ姿でいたんだもんね。
今は、その気持ちが理解できますとも。
化け猫扱いされたのも、仕方ないと思えるくらいにはね。


「でもさ、その後はすげえ嬉しかった」

「嬉しかった?」

「ああ。本当に俺がでかくなるのを待っててくれたんだ、ってさ。
約束してくれたの、覚えてるか? 俺が大きくなるのを、このまま待ってるから、ってやつ」

「あ、ああ……」


言った。
イノリ(小)の熱意にほだされて、言いました。
こいつ、そんなことまで覚えてたのか……。


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