いつかの君と握手
「と、遠い……」


セレブ登校だぜ、と余裕をこいていたら。
『今日は早朝会議だから、時間がない。ここで降りろ』
と目的地から遠く離れたところで孝三の車から放り出された。

最悪なことに、天候はあいにくの雨。
というか、どしゃぶり。
傘を差していても、びしびしと容赦なく打ち付けてくる雨粒。
イベントはたいてい晴れてきた、自称晴れ女なのに、あたし。
こんなの初めて。
誰だ、雨雲呼んでる奴は。

ということで、あたしは今、人の姿の少ない駅前通りを、風に煽られる傘を差し、
おまけに重たいバッグを抱えてよたよたと歩いているのだ。

バッグ、なんでこんなに重たいのさ……。
一泊二日、たいした荷物は入れていないつもりなのに、この重さはどうしたことか。
デキる女はこういうときの荷物はコンパクトだというが、その定理でいくとあたしはデキない女なのか。

いやいや、これはあたしが女の子であるがゆえの非力というやつなのよ、きっと。
コンパクトな荷物なんだけど、重たいのー。
だって女の子だもん。


「しかし孝三め……、かわいい娘と早朝会議、どっちが大事なんだっつの。あの薄毛、いつか毟ってやる」


ふう。駅まであとちょっとだ。
と、前方に大きな屋根のあるバス停を見つけ、足を速めた。
叩きつける雨粒も、ベンチまでは侵食していなかった。
それに感謝しつつ座り、ため息を一つついた。ちょっと休憩していこうっと。

ああ、疲れた。雨のせいか、心なしか体が冷えたような気がする。風邪ひいたらどうしよう。

ハンカチで服についた雫を拭い、空を見上げた。
この天気じゃ、日程表の予定が大幅に変更されちゃうなあ。
まずオリエンテーリングは無理じゃない?
傘差して散策なんて、全っ然楽しくないし。苦行でしかないよね。
室内だとすると、何やるんだろう?
かくれんぼ? フルーツバスケット? んなわけないか。


「おい」

「んあ?」


振り返ると、大きな傘を差した大澤が立っていた。

上下黒のジャージ姿。
肩には某有名スポーツブランドの大きなバッグ。

ほほう、イケメンさんという生き物は何でもかっこよく着こなせるもんですな。


「大澤か。なに?」

「オマエ、その服装」


ベンチにふんぞり返っていたあたしをまじまじと眺める。


「なに。変?」


変と言われるほど、奇抜な格好してないけどね。
ユニ●ロと某海外ブランドのコラボTシャツ。色はサーモンピンク。
下もユニ●ロのジーンズだい。

あ、あたしってここだけは自慢なんだけど、肌だけは綺麗なのだ。
色白だしね! 
だからサーモンピンクを着ても、肌はくすむことなく綺麗に見えるのだ、えへん。


「……いや、それ、オマエの服だよな?」

「おととい買ったばかりの、あたしのだよ」


じいちゃんに買ってもらいました。Tシャツは他にも2枚買ってくれたのだ。
ビバ、年金支給日。


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