いつかの君と握手
自動販売機の傍らで、作戦会議をする謎の二人組。
はい、あたしとイノリです。

イノリの持っていた近隣周辺の地図を覗き込みながら、作戦部隊の参謀であるあたしは指先で小さな円を書いた。


「うーん、じゃあ隣の市の、この辺りだね。イノリの通っていた小学校は」

「たぶん……」


目的地はイノリが母と義父と一緒に住んでいたアパートだ。
小学1年生の記憶力ではおおざっぱな住所しか分からず、しかも目安にすべき地図というのがこれまた雑。
主要道路しか書いてないのだ。いや、無いよりはマシだけどさー。
ということで、まずはイノリの通っていた小学校を見つけ(校名は分かってるので、探しやすいはず)、登校ルートを辿ってアパートへ向かう、という作戦にした。

と言うのも、詳しく訊けば、義父はイノリを実父の家へ連れて行き、「元気でな」と言い残して去ったのらしい。
それから先の消息は、実父が教えてくれないので分からないとのこと。

なので、まずは以前住んでいたアパートへ。
引っ越してなければ、捜索は早く済むはずだ。


「少し距離はあるとはいえ隣だし、歩いて行くね。平気?」

「うん。がんばる」


イノリの所持金は、6千円。
お年玉やお小遣いをこつこつ貯めたものだという。
そんな大事なお金をおいそれと使えない。

歩いていける距離なら、歩いて行くべきだ。

あたしも新札でよければ同額以上はあるんだけどねー……。
何の役にも立たないなんて、切ない。

つーか、いつ紙幣はリニューアルされたの?
誰か教えてー。もやもやするのー。


「よし、行くか」


作戦室(ベンチ)を立ち、あたしたちはこそこそと駅を後にした。
カバに会うといけないからね。
早くここを離れなくては。

駅横に併設されているバスターミナルを抜け、駅前通りを歩く。
さっき来た道を逆戻りだ。


「イノリさあ、何で駅に向かってたの?」

「遠くに行くときは電車に乗るんだよって母さんが言ってたから」

「なるほど」


てけてけ歩いていると、あたしがイノリと出会った場所についた。
今、元の時代に戻ったらこの子を置き去りにしてしまう。
それはよくない。

なんとなく、自分が立っていた場所を避けながら通り過ぎた。


「どうしたの? ミャオ」

「なんでもない。で、イノリさあ、どうやって本当の父ちゃんの家を出てきたの?」

「近くの公園でおとしよりがラジオ体操してるんだ。それにまじって体操してきますって言った。このリュックは前の日にマンションの垣根の中にかくしてたんだ」


知能犯じゃのう、おぬし。

イノリは仮面ラ●ダーなんとか(よくわかんない。女の子はヒーロー物に疎い生き物なのだ)のリュックサックを背負っている。
パンパンに膨れているのだが、中身はお菓子と下着だ。もう確認済み。
小遣いといい、荷物準備といい、行動的だわ、ホント。
あたしはこのころは鼻水垂らして遊んでた記憶しかないのにな。


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