いつかの君と握手
いいのか、式場。

こんなべっぴん巨乳おねいさんが来たら、浮気する新郎が出てくるぞ。
つーか、するだろ。
あたしだったら是非お願いしたいところだ。いや、そっちのケはないんだけどね。
でもそれくらい魅力的なのだ。

そんな姐さんがどうして三津なんかを、と思わなくもない。
というかはっきりとそう思うんだが、ちょこちょこといい男なのかもしれないという場面もあるにはあるので、黙っておこう。

チョコを飲み込んだイノリが質問に答えた。


「ミャオ、って呼んだよ?」

「あたしの名前、ネコの鳴き声みたいでしょ? だから友達はミャオって呼ぶんです」

「あ、かわいいー。いいね、それ」

「みーちゃんよりかわいいな。オレもミャオって呼んでいいー?」

「だめ!」


ビシリと答えたのは、あたしではない。
口の端にチョコをつけたイノリだった。


「だめ! ミャオって呼ぶの、だめ!」

「な、なんで?」


急に怒ったイノリに驚く。どこが逆鱗に触れたの?


「ミャオって呼ぶの、おれだけだもん」

「は?」

「おれ以外、呼んだらだめ」


うーん、なんのこっちゃ。
意味不明なわがまま言う子じゃないけどなあ。
首を傾げたあたしに、柚葉さんがくすくすと笑った。


「そっかあ。祈くんって美弥緒ちゃんのこと、好きなんだ?」

「へ? 柚葉さん、それどういう意味ですか?」


つーか、こんな会話、どっかでしなかったっけ?
はて、これってデジャヴ?


「好きだよ! だから呼んじゃだめ!」

「お? おお?」


こんな言葉はデジャヴしねえや。
隣にちょこんと座る、大きな声を出したイノリを見た。

なんだ? この子に懐かれすぎたのか、あたし。
いや、こんなかわいい子になら大歓迎だけどもさ。

好意を示されたお礼に、と頭でも撫でようとしたら、振り払われた。


「子どもじゃないぞ! とにかく、おれ以外はだめなの!」

「おお、おお?」


久しぶりに会った孫の成長ぶりについていけないおじいちゃんのように、口をぱかんと開けて頷くだけのあたし。
いつ成長したんだい?
わしゃついていけんがな。


「分かった? 呼ばせたらだめなんだよ?」

「お、おお。おお。
あ、でも友達はもう呼んでるから、変えられないよ?」

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