ケータイ小説 『肌』 著:マサキ
ヒロは落ち着いた口調で、アサミのペースに巻き込まれることなく冷静に返した。
『読み手のアサミには理解できない部分かもしれないけど、小説は、アイツにとって唯一の逃げ場だったんだ。
書くことで、自分の弱さや過去と向き合い、現実を受け止めようとしてたんだ。
書籍化だって、本人が望んだことじゃない。
小説消そうとしてた時に、サイト運営してる人達から何度も頼まれて、マサキは仕方なく出版に賛成したんた。
小説を書いた頃、マサキは書籍化なんて望んでなかった。
たしかに俺も、浮かれてたよ。
マサキの小説がバイト先で平積みになってるの見た時、嬉しくてさ。
でも、それとこれは違う。
これ以上、マサキを苦しめないでやってよ……』
どういうこと?
ヒロの言葉を深く受け止める私とは反対に、アサミはストレートな感情を電話の向こうにぶつけた。
「マサキが、いつ、何に、苦しんだって言うの?
ミオの身になって考えてあげてよ!
突然音信不通にされて、別れ話されて、それだけでもキツいのに、今、こうやって知らないとこで自分達のこと小説に書かれて、ものすごく振り回されてる……。
いい迷惑なんだよ。
マサキは小説書いて気が晴れたのかもしれないけど、ミオには逃げ道なんてなかった……!」