僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
ハンドルを右に切る。
ギャギャギャギャと音を立ててのドリフト。
前方の車を抜いていく。
三位…二位…一位!!
このままゴールへ…!!
ピーピーピーピーピー!!
警戒音が鳴る。気付いたときには遅すぎた。
ドーーーン!!
トゲゾーがHIT!!
「ぐわぁ!!」
「やっりぃーー!!ナイスCPU!!」
中空を回転する車。その下を通り、抜き去っていく数台の車。
「一気に五位!?」
「一位だぁーーー!!」
「自由だぁー!見たいに言うな。」
「兄ちゃん、それ古いよ。」
「うわっ、くそ!!赤甲羅!!」
妹に誘われて、一度は断ったもののゲームをしている。
アレだよ。
女性は強いって。
あの笑顔には勝てないわ。
マ〇オカートWii
意外にまだ楽しめる。
1人でやってもあまり面白くないよねー。
小一時間。
しっかり楽しんだ。
「はぁー、一回も一位になれなかった…。」
「ホンット下手だよねー。」
「ぐはっ!!」
そんなに…下手じゃあ…無いんだがな…。
「お前だって一回しか一位になれなかったじゃないかよ。」
「兄ちゃんには敵わないよ。だってドベに…」
「言うなよ…わかってるよ…。」
やべぇ、涙で視界が滲む。
「やぁい!泣っき虫洒冴ー!!」
「小学校でのあだ名で呼ぶな!!」
「久しぶりに兄ちゃんの泣き顔見たわー。」
「うるへー!」
「中学で急に泣かなくなったもんねー。」
泣き虫の自分を変えようとサッカーを始めたんだ。
でも、今日は久しぶりにキタな…。
「もしかして…島井さん?に、惚れたから?」
「ばっ!?ちげぇよ!!」
確かに島井には中学のサッカー部で初めてあったけど、会話とかしなかったしなんなら名前すら知らなかった。
「サッカー始めた時点で僕は泣かなくなったんだよ。」
「へぇー。」
「本気にしてないな?」
「当たり前じゃん。」
「否定しろよ…。」
可愛くきょとんと首をかしげる妹。
「可愛く首かしげるなよ。ダメージ上がるだろ。」
「フフ…ま、今日は楽しかったよ。お兄ちゃん♪」
「お?おう…。」
なんだその変わり身は?忍者か?闇に隠れて生きるのか?って、それは妖怪人間か!っつーの。
「ありがとっ♪今日はもうゆっくり休みな。」
「任せろ。って、お前と付き合ってたからもう9時だろ!もう寝るよ。」
ったく、撮り貯めてたアニメ見たかったのに…。


暖かいベッドの中。
懐かしい自分の少年期を思い出す。
…蜘蛛を見て泣いた保育園時代。
ブランコから落ちて泣いた幼稚園時代。
六年生と手を繋いで歩いて、モロこけて泣いた小学一年生の頃。
九九が出来なくて泣いた。
リコーダーの曲(パフ)に感動して泣いた。
二分の一成人式で泣いた。
親の涙を見て泣いた卒業式。
別れを悲しんだ葬式。
「泣いてばっかだな…俺…。」
あの頃の一人称に戻る。
「最近は泣いてなかったのにな…。僕は…」
今の僕は…島井が好きだ。
< 29 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop