the last century

「昨日……入学式で会ったよな?いや……会ったってゆーかその………」

その言葉だけで充分だった。

……覚えててくれたんだ。

「うん、会ったよ。私も覚えてる。」

彼を見ていると自然と笑顔が零れてきた。

その笑顔に少し頬を赤らめる彼。

「そういや…名前……まだ聞いてなかったな。」

聞いても良い?とこちらを見つめて来る。

「あ……私は天野 千鶴(あまの ちづる)えーっと………貴方は?」

「俺は……根岸 雄大(ねぎし ゆうだい)宜しくなっ」

そう言って差し出されてきた彼の手をゆっくりと握った。

今時、拍手なんて珍しいなぁ……しっかりしてて武士みたい。

武士ーーーと言えば、あの夢ーー。

なんだったんだろ?




だが直ぐに、彼の声で現実へと引き戻された。

「天野もこの路線なのか?」

「うん…。根岸君と同じだね。」

「じゃ……毎朝…会うんだな。」

ポツリと言った彼の呟きは、私にも聞こえていた。


愛おしい……………。

君が……とても。


彼の声を自身の耳で聞いて、さらに強くそう感じた。


涙腺が緩んできて、涙が頬を伝って零れ落ちてゆく。

《やっと……貴方に会えましたね。》

突如、頭の中に私の声が響く。

正確に言うと、私であって私じゃない声だった。



「………大丈夫?」

泣き出してしまった私を根岸君が心配してくれた。

まだ瞳は潤んでいる。

「大丈夫だよ。目にゴミが入っただけみたい。」

それを伝えるために微笑んだ。

「そうか、良かった。」

根岸君も笑い返してくれる。

「ホームに行かないと…………。」

私がハッとしてそれを彼に言った。

確か、そろそろ出発だったハズ…………。

入学そうそう遅刻する気なんて私には微塵も無かった。

「……そうだな……ほら…行くぞ?」

根岸君がホームへと続く階段へと歩を進めた。

その背中を見ると何故か 安心できた。

ほんっと何でだろう?

根岸君と会ってからの私は何処かが可笑しい。


根岸君の後を辿って、私も階段へと歩き出した。

まだ数分かは、時間に余裕があったようだった。

左手首の時計を見遣りながらそっと、安堵の息をついた。

階段を下りて、暫くすると電車がやって来た。

彼と共にそれに乗る。

隣同士で席に座ったから、なんだか恥ずかしい気持ちになった。

うわっ……近いっ……

すぐ横に彼が居て、少しでも動いたら、体と体が触れ合ってしまいそうだった。

彼を意識せざるを得ない私。

石鹸の良い匂いがこちらまで漂って来る。

落ち着く香りだ。

各駅に停車する度に次々と人が乗って来る。

段々と混雑してきていた。

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