平成のシンデレラ

本当は今日のこのパーティに出席するのは両親のはずだった。
それが親父の手違いでダブルブッキングをしてしまったらしい。
たまたま今夜の催しはこの別荘の近くだった為に
急遽代役にさせられてしまった。


普段、仕事絡みのパーティには
大概親父かお袋、どちらか一人が出席する。
なのに両親揃って出席する予定だったという事は
それだけ格式も高いし出席者との親交も深いのだろう。
代役とはいえ、記帳だけしてくるというワケにはいかない。
挨拶と両親が来られなかった申し訳をしながら
会場を一巡しなくてはならないだろう。面倒なことだ。
こんな時は「南波」の名前が鬱陶しいとつくづく感じてしまう。


しかも厄介なことにパートナー同伴だという。
普段であればそんな同伴者を調達する事など容易い事だが
今は休暇中で東京を離れているからそうは簡単にはいかない。
呼び寄せる時間もない状況の今、目ぼしい候補者といえば・・・
この別荘のハウスキーパーとして雇っている香子だけだ。
背に腹は代えられない。仕方なく彼女をパートナーに仕立てた。


仕方なく、というのはが香子がパートナーとして
不満なのでも不相応なのでもない。
俺は彼女を人前に出したくなかった。
言うなれば掌中の珠。本当に大切なものというのは
そう易々と他人には見せたくないものだ。


一見、香子は地味なタイプに見えるけれど
それはあまり構わないからで、素材としては悪くない。
衣装と化粧で装えば人目を惹くだろう。
とはいえ、ハウスキーパーとして来ている香子は
当然。改まった衣装など持ってきていない。
困った俺は祖母に仕えていた如月に連絡を入れてみた。


すると祖母の和服が屋敷に保存してあるという。
呉服好きだった祖母は自分のためだけでなく
嫁や孫にも色々と誂えていたらしい。
名のある作家や職人の一点ものや
祖母が自ら絵を描き染めの色を決めたものもある。
祖母亡き後も形見として執事の白川と如月が
大切に維持保管してきたのだという。


その中から如月が選び出したのは格調高い艶やかな振袖だった。
如月に手伝ってもらいながら髪を結い上げ着付けを終えた香子の仕上がりは
俺の予想以上で、一瞬言葉をなくしたほどだ。
「着物が良いからよ」と照れて笑う姿さえ、いつもとは違って見えた。


そんな和服効果も手伝って普段より3割は増しているだろう彼女の艶姿が
ただ男の目を惹くだけならいいが、中には好色家もいる。
そんな輩に目をつけられたとしても香子がなびくとは思えないが
完全に俺のモノにはなっていない焦りが不安を煽る。


今日も会場に入って挨拶をする少しの間、
側に居ろとあれほど言っておいたのに
ちょっと目を離した隙に居なくなった。
幼子じゃあるまいし、連れ去られるなんて事はないだろうが
それでも分からない。年齢の割りに疎いところもあるし
手馴れた優男に誘惑でもされていたらと気が気でなかった。
こういうパーティにはそれを目的としているような不届きな輩もいる。



「あのバカが。人の気もしらないで・・・」



忌々しさに舌打ちをしながら
挨拶もそこそこに香子を探して会場を歩いていたら
西園寺家の令嬢に呼び止められた。


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