モラルハザード

「いらない」

渡そうとしたクッキーを向日葵が手ではらい、下にちらばった。


その瞬間──

バシッ!

一瞬だった。平手で、向日葵の頬をぶってしまった。


「何してるんや、子供にあたるなや」


頬をぶたれて、泣きわめいてる向日葵を、陽介がベビーカから抱き上げた。

向日葵の頬は真っ赤だ。痛いのだろう。

火がついたように泣いていた。

自分の手がじんじん痛んだ。

それは、私の心も同じだった。

「私だって、私だって、あたりたくなんかないよ。でも、こんなの普通じゃないじゃん」

声が震えた。

涙は出なかった。

感情が追いつかないのだ。

私はその場に座り込んだ。


「奈美、そんなこと言ってる時やないんや。ここを出て行ったらもう大丈夫やから。ちゃんとなるから、大丈夫や。だから、はよ行こう」


向日葵を抱いた陽介の言葉に、納得したワケではない。

でも

私にはついていくしか選択肢はなかったのだ。
< 172 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop