モラルハザード
「いらない」
渡そうとしたクッキーを向日葵が手ではらい、下にちらばった。
その瞬間──
バシッ!
一瞬だった。平手で、向日葵の頬をぶってしまった。
「何してるんや、子供にあたるなや」
頬をぶたれて、泣きわめいてる向日葵を、陽介がベビーカから抱き上げた。
向日葵の頬は真っ赤だ。痛いのだろう。
火がついたように泣いていた。
自分の手がじんじん痛んだ。
それは、私の心も同じだった。
「私だって、私だって、あたりたくなんかないよ。でも、こんなの普通じゃないじゃん」
声が震えた。
涙は出なかった。
感情が追いつかないのだ。
私はその場に座り込んだ。
「奈美、そんなこと言ってる時やないんや。ここを出て行ったらもう大丈夫やから。ちゃんとなるから、大丈夫や。だから、はよ行こう」
向日葵を抱いた陽介の言葉に、納得したワケではない。
でも
私にはついていくしか選択肢はなかったのだ。