モラルハザード
「奈美ちゃん、パパは海外の出張って、どこに行ってるの?」
真琴が、テーブルの向い側から尋ねた。その物の言い方が気に障る。
──どちらに、行ってらっしゃるの?でしょ。
これで、聖英を目指しているというんだから、笑ってしまう。
まずは、親がお教室に行って、しつけをやり直さなきゃいけないんじゃないかしら。
鼻で笑いそうになるのをこらえた。
「えっとね、ロスよ、ロサンゼルス」
奈美がそう答えると
ちょっと離れた席にいたみっこちゃんが加わって来た。
「えー、ひまりちゃんのパパ、ロスに行かれてるの?
うちのパパも今、ロスに出張なんだ。
どこのホテルに滞在されてるの?
うちはサンタモニカの辺りなんだけど、奈美ちゃんちは?」
「…どこだったかな…あ、ごめん、ちょっと忘れちゃった…」
「うちね、昨年まで、ロスに赴任してたから
いろいろ楽しいところ知ってるよ。もし、まだ時間があったら
サンタバーバラまで行ってみて、ロスから車で1時間くらいだし
すごく素敵な街だよ」
聞いてないのに、自分の海外赴任の話をする。
本当に、このみっこちゃんというのは
人の領域にズカズカと入ってくるような厚かましさがある。
だから、とても苦手だ。
奈美も少し困ってる風だったので助け舟を出した。
「やだ、みっこちゃん、奈美ちゃんちのパパは
お仕事で行ってらっしゃるのよ。観光はきっと次の機会に…よね」
「そうね、そうなの、今回は仕事だから、
ゆっくり出来ないけど、また、家族で行ったときは
みっこちゃんにアドバイスお願いするね」
そういうと、奈美は、デザートは何かしら?とさりげなく話題を変えた。
家族で旅行…
もしかしたら、うちはもう叶わないかもしれない。
亮太とはしばらく別居することにしたのだ。