モラルハザード


「奈美ちゃん、パパは海外の出張って、どこに行ってるの?」

真琴が、テーブルの向い側から尋ねた。その物の言い方が気に障る。

──どちらに、行ってらっしゃるの?でしょ。

これで、聖英を目指しているというんだから、笑ってしまう。

まずは、親がお教室に行って、しつけをやり直さなきゃいけないんじゃないかしら。

鼻で笑いそうになるのをこらえた。


「えっとね、ロスよ、ロサンゼルス」


奈美がそう答えると

ちょっと離れた席にいたみっこちゃんが加わって来た。


「えー、ひまりちゃんのパパ、ロスに行かれてるの?

うちのパパも今、ロスに出張なんだ。

どこのホテルに滞在されてるの?

うちはサンタモニカの辺りなんだけど、奈美ちゃんちは?」


「…どこだったかな…あ、ごめん、ちょっと忘れちゃった…」


「うちね、昨年まで、ロスに赴任してたから

いろいろ楽しいところ知ってるよ。もし、まだ時間があったら

サンタバーバラまで行ってみて、ロスから車で1時間くらいだし

すごく素敵な街だよ」


聞いてないのに、自分の海外赴任の話をする。

本当に、このみっこちゃんというのは

人の領域にズカズカと入ってくるような厚かましさがある。

だから、とても苦手だ。

奈美も少し困ってる風だったので助け舟を出した。



「やだ、みっこちゃん、奈美ちゃんちのパパは

お仕事で行ってらっしゃるのよ。観光はきっと次の機会に…よね」


「そうね、そうなの、今回は仕事だから、

ゆっくり出来ないけど、また、家族で行ったときは

みっこちゃんにアドバイスお願いするね」


そういうと、奈美は、デザートは何かしら?とさりげなく話題を変えた。



家族で旅行…

もしかしたら、うちはもう叶わないかもしれない。


亮太とはしばらく別居することにしたのだ。






< 302 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop