泥だらけの猫
 駅を出て少し歩いたところで尾行の気配がしなくなった。だが、油断は禁物だ。あの角を曲がって奴がついて来ていない事を確認して会社に向かったほうが良いだろう。もしもの事を考え、角を曲がるとすぐに立ち止まり、スマホを取出し電話を掛けているようなマネをしよう。 
 腕時計を見ると二分が経過した。どうやら奴は私にまかれたらしい。 
 私は、スマホをバッグにしまうと会社へと向かった。 
 会社では何も不穏な事は起こらなかった。今日のところは先ずは一安心だ。私は帰宅の電車に乗り込んだ。毎日の事ではあるのだが、この時間帯の電車の混み様には閉口する。ただ単に混んでいるだけなら良いのだが、私の場合は高い確率で痴漢に会うのだ。尻だけならまだしも、見境もなくそれ以上の行為に及ぶ輩がいるから手に追えない。たまには触っている手でも掴んでやろうかと思うが、そんな汚らしい手に触れることのほうがゾッとする。そして今日もタイトスカートの上から私の尻を撫で回し始めた。私は、駅に停まる度に場所を移動し、相手が諦めるのを待つ。四つ目の駅を過ぎたところで痴漢の手を感じなくなった。毎度毎度のことながらホントに変態の多い電車だと逆に感心してしまう。
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