Special
「いらっしゃいませ」
いつもより格段に早い時間に踏み入れたいつものバーは、ちらほらと客が入っていた。
そんな店内に足を踏み入れたオレに声を掛けたのは真琴じゃない。
それでもオレは真っ直ぐにカウンターへと足を進め、一人のスタッフに声を掛ける。
「今日、アイツは―――…」
そう問い掛け掛けた時だった。
カウンターの奥にある扉が静かに音を立てて開いた。
そこから姿を現したのは、真琴。
初めはやっぱり伏し目がちでいる真琴はオレの存在に気付いてなどいなかった。
まぁ、そうだろうな。
こんな時間にオレがここにいるなんて思っちゃいねぇだろうから。
そんな真琴に声を掛けず、ただ射るような視線を送る。
するとその刺さる視線に気づいたのか真琴が不意に視線を上げて、オレを見た。
「―――な…」
「…お前でも、そんな驚く顔、したりするんだな」
「…こんな時間に来るなんて、№1は余裕だ、ねッ…?!」
真琴の言葉を聞き終えるかどうかのとき、オレは椅子から立ちあがってカウンターにいる真琴の腕を掴んで引き寄せた。
その行動にもう一人のスタッフも凝視しているが、そんなもん、今のオレには関係ねぇ。
「よくも、昨日は追い払いやがって」
「別に追い払ったわけじゃないでしょ。店は閉まってたんだから、帰って貰ったのは普通のことで」