あいのことだま
深夜十二時過ぎても、和也は帰って来なかった。

和也の携帯は電源が切られていた。

篤もさっきまで一緒に和也の帰宅を待っていたが、朝が早い篤は一足先に布団に入った。


留美も一緒なのかもしれない…

萌子は真っ先に考えた。

しかし、留美の母から連絡はなかった。


午前一時を過ぎ、萌子は諦めた。

和也は家出したのだろう。

留美の母に支払うはずの50万と、自分の預金17万を持って。

和也の部屋の押入れから、いつも通学に使っているスポーツバッグが見つかった。

中には教科書や体操ジャージが詰め込まれていた。


「和也、まだ帰らないんだ。」

杏奈がトイレのついでに食堂にいる萌子に声を掛けた。

「うん…やっぱりダメ。」

萌子はテーブルに突っ伏した。


その時、萌子の携帯が鳴った。

急いで携帯を手に取ると和也からのメールだった。

萌子は焦りながらメールを開いた。

[お金を持ち出したのは俺です。
こんなことしてごめんなさい。
留美も一緒です。留美のお母さんは今夜仕事でいないけど、もし、そっちに連絡があったら、俺と一緒だと伝えて。
学校は辞めて働く。
退学届、出しておいて。
行き先はちゃんと決めてあるから、心配しないで。
留美と赤ちゃんの為に頑張るから。
こうなったのは全部俺のせいだから、
留美を責めないで下さい。
本当に大丈夫だから、探さないで。
お金はいつか返すから。
また、落ち着いたら連絡します。]


メールを読んだ萌子は、ショックのあまり、眩暈を起こし、手から携帯が滑り落ちた。




萌子は一睡も出来ないまま、朝、台所に立った。

起きてきた篤に和也からのメールを見せると篤は絶句した。

「行き先、決まってるってどういうことだろう…」
篤は言った。


危ない話でなければ良いが。
萌子は祈るような気持ちだった。

篤は萌子にとりあえず学校には、和也の体調が悪くて、何日か休むと連絡するようにと指示した。
そして、留美の母親にも連絡するように言った。

「えっ嫌だ、あの人、私、苦手。怖いよ。」
萌子がいうと
「こんなメールが来た以上、伝えないわけにはいかないよ。」

篤は出勤の支度をしながら言った。

バイク通勤の彼は被りのウインドブレーカーを着た。

「飯、早くしてくれよ。遅刻しちまうよ。」
篤は早口で言った。

萌子だって九時から和菓子屋で仕事だった。

頭がぐちゃぐちゃで疲労が溜まっていた。

しかし、お金の為に仕事は休むわけにはいかなかった。
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