さよならまた逢う日まで
ラジオから流れる天皇の言葉に誰もが涙した。




月夜を仰ぎ見ながらばあちゃんは泣いた。



敗戦を悔やむ涙ではなく、これ以上消えゆく命を見送ることがないことを祈る想いから溢れ出る涙だった。



男は側にそっと寄り添い抱きしめた


堰き止めていた想いが溢れ出てばあちゃんは泣き崩れた。








握りしめた手が微かに握り返してきた。



目の前にはまた無機質な病室が広がった。


心電図の電子音が乱れ始め酸素マスクの中で唇が動いた。



耳を近づけばあちゃんの伝えたいことを待った。



「レオ…ありがとう。



また会いに来てくれて…ありがとう。」





月夜に抱き寄せた…あの男は…俺。



握られたばあちゃんの手の力が最後の言葉を言い終えると同時に手応えをなくした。



心拍音は耳を刺さるような電子音で最期を告げた。




遠のく意識の中でむせ返るように涙が溢れ出た。



ばあちゃんの最期に側にいたのは俺じゃなく…親父だったのだろう。



あの日ばあちゃんが愛した人。





なんだろう…溢れ出る涙が止まらない。




どうしてなんだろう…どうしてなんだろう。


胸を締め付ける。
< 41 / 73 >

この作品をシェア

pagetop