束縛+甘い言葉責め=溜息
「バカバカしい……」

 違うのか、顔色を変えずにそのまま部屋から出ようとする。

 たまらなくなって、手首をつかんだ。

「どこにいた?」

「離して!!」

 思いきり手を振り払われた。

ショックで声が出ない。

「……後で言う。今、ご飯してるの。今からしないとお腹空いてお菓子食べるから」

 そう言い去る背中を見て、ほんの1分考えてから、同じように和室を出た。

「風呂入るよ」

 少し家事を手伝ってやらなければならないという思いから、出勤前に子供たちを風呂に入れてやろうと思っただけなのに、真紀はビクッとすると、

「あっ、まだ掃除してない……」

 バツが悪そうに答えた。

「いいよ、俺が掃除する」

 無理して笑顔で答えたが、その声を聞いた真紀は少し俯き、手が完全に止まっていた。

 外に出て、家の中のことを俺にさせることに、抵抗があったのかもしれない。

 それで少し考え直してくれればいいんだけどな、と思いながら、適当に風呂の掃除をする。

「湯貯めるよ。僕まだ風呂入ってないから。みんな入れてから出て行くよ」

「……うん……」

 真紀はこちらを見ずに、焼きそばを炒めている。

 外に出歩くようになって、メニューは随分変わった。少し前までは、手の込んだロールキャベツの煮込み物やビーフストロガノフなどが何品も並び、料理の腕にも自信を持っていたのに、今日は焼きそばだ。

 今日は10時に出社すればいいか……。

 仕事の算段をしながら、ゆっくりとした時間を過ごすことにする。

 子供が寝るまでみてやって、少し家のことを考えなければならない。

 風呂から上がり、夕食をとった後、しばらく遊ぶとすぐに9時になる。

四男がぐずる中、長男の歯磨きをしたり、三男のおむつを替えたり。やらなければならない、必要最低限のことでも無限のようにある。

 やはり少し息抜きが必要なのか……そう思いながら、四男を抱き、次男と積み木の片付けをしていた。

 ふと見ると、イタリア製のソファの隅に、真紀のバックが無造作に置かれている。

 バックも皮ではないナイロン製の普段使いの物。……今日持って行っていたのは、これなので、浮気ではないのだろう……、少し言い過ぎたかな、と反省しながら、バックをクローゼットに片付けようと近づいた時。

 中に入っている白い封筒に気が付いた。

 よく見る。

 いや、病院の処方箋だ。 

 まさか、病気か!? と焦る気持ちで、バックから取り出した。
< 16 / 25 >

この作品をシェア

pagetop