彼氏くんと彼女さんの事情
春川くんの姿を一目見るなり眠気は何処かへ吹っ飛んでしまい、ドキドキと心臓がフル回転しだす。
教卓に立つ50代の女の先生に気怠そうに遅刻届を渡した春川くんは、そのまま窓際の自分の席に座った。
「(授業終わったら話しかけに行こう)」
授業の残りの数分を寝ている春川くんの観察に使い、チャイムが鳴り先生が教室を出ると同時に春川くんの席に行った。
寝ている春川くんの肩を小さく揺すりながら、恐る恐る声を掛ける。
「春川く~ん」
「……zz」
「春川く~ん」
「……zz」
「…………」
起きる気配はない。机に突っ伏して眠る春川くんは、ちょっとやそっとの刺激では起きないらしい。
「はーるかーわくーーん」
「…………」
はて、どうしよう。
やっぱり今起こすのは無理だろうか。
「(しょうがない、やっぱり昼休みまで待つか…)」
……春川くんが夢の世界から戻ってくるのはお昼休み、お弁当を食べるときだけなのだ。
その僅か10分の間に話し掛けないと、今日春川くんと話すチャンスはない。
はぁ、と溜め息をつき席に戻ろうと思いつつ、チラリ、腕と机の隙間から見える綺麗な寝顔が目に入る。
長い睫毛に白い肌、そして筋の通った鼻。柔らかい表情で気持ち良さそうに眠る春川くんに目が釘付けになる。