ピアス
「これは大問題ですね、ええ、大問題ですよ。非常事態ときに、大問題ですよ」
 柚菜が冷やしてあった麦茶を男に差し出す。
「あざーす」と言い、一気に飲み干す。
 


 クリフは男の身なりを見た。頭にターバンを巻き、青色の浴衣を着ている。背中には剣の紋章が入っていた。帯は赤い血を連想させた。男の左耳にもチェーンピアスがつけられていた。髪はボサボサで肩まである。目は細くキツネのようだ。左頬には赤い線が三本は入っていた。


「俺の名は?」
 クリフが再度問う。


唾を呑み込み、「疾風のクリフといえば、その名を知らぬものはいないはずです。そして私は一番隊隊長クリフ様の副隊長を務めております。ピエールでございます」とピエールは歌舞伎役者のように言った。



「私は彼のことを疾風のクリフではなく、記憶なしのクリフと呼んでるわ」
 柚菜が笑いながら言う。

「ちょい。ちょい。そこの可愛い子、そこの可愛い子。隊長に向かって記憶なしのクリフはいささかまずいですよ」
 ピエールが言う。

「彼女はいいんだ」
 クリフが冷淡な口調で言う。

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