運命という絆
拓真の選択
「受験は、僕はしません!」

その言葉に担任の米村はノートPCから両手の指を震える様に外し、田中拓真の全く予想もしなかった考えに顔を見据えた。

「どうしたんだ?!…何か事情があるなら話を聞こう…」

公立だが全国屈指である進学校の首席である拓真の意外な言葉に米村は逆に狼狽え、脇から冷たい液が流れた。

拓真は米村の落ち着きの無い視線をじっと見詰めている…

「とにかく話し合おう…そうだ!君は両親を無くしてきっと情緒不安定になって居るんだよ!母親を病気で亡くし、父親も無責任に思春期で大切な時期に行方不明なんだろ?」

「父親を悪く言うのは止めて下さい!」

拓真の語気が荒ぶった。

「お母さんは君が東大に入る事を切に願っていたじゃないか?少し冷静に考えよう…もしこんな事が上に知られたら?私にも立場が有る…」

「今、情緒不安定なのは貴方でしょう!生徒の事より自分の事を守る事が大切ですか?気持ちは判りますよ…でも自身の将来は自身で決める事ですから!これから必要な単位はしっかりと勉強し卒業もします。では、そういう事で…」

拓真が静かに席を立った

「この事は他には話さないでくれないか?…」

「別に唯、卒業さえさせてくれれば僕は何も喋りませんよ…教師と云うのも大変ですね」

両手で頭を掻きむしる米村を尻目に皮肉を残し、拓真は教室の扉を静かに閉めた。

「やっぱり父さんの血が流れてるんだね…この決意は自身の本心!何か、すっとしたよ」

拓真は、生まれて初めて物事を一人で考え決めた自分自身を褒めた。

「どうした?拓ちゃんヤケに早く終わったみたいだけど…流石だよね。ヤッパリ東大?頭の出来かなぁ…俺なんか模試の結果が悪かったからアイツ(米村)に何言われるか?ビクビクして家に帰っての言い訳を考えてたとこなのに…」

次の面談を待つ長野があっと云う間に面談の終わった拓真に心境を吐露し溜め息をフゥと吐いた。

「長野入って来い!」
米村の苛立ちを顕にするような怒鳴り声は三階の隅々迄、響いた。

「おお!怖!!…益々、最悪だなぁ」

事情を知らない長野は自身へ向けられた感情と勘違いしながら恐る恐る教室の扉を開け、拓真に苦笑いを残し扉を閉めた。

「人それぞれか…」

長野には少し申し訳無さを感じながら拓真は、教室から遠ざかった。

「さて、生徒会室でも顔を出すか…もうすぐ学生として最期の合同祭だしな」
< 1 / 30 >

この作品をシェア

pagetop