運命という絆
「後、半分だ!会長、頑張れ!」

前田が堪らず、マイクで叫んだ。

それが堰を切り「会長!」と周りを囲む観衆から会長コールが波紋の様に拡がり全体が拓真コールで包まれた。拓真にもそれは心に届き、勇気付けられたのに反応したのか眼の前の視界が歪んだ。「ありがとう…」自然と涙が止まらない自分が不思議だった。それは見守る全ての人も同様で近くに居る生徒、PTAからも震える声で「会長あと少し!」「拓真!頑張れ!」の声が会長コールの中でも大きく響いた。

この時、時間は止まっていた。皆の声援は、拓真のゴールだけを祈った…



"ハッ!"と意識が戻った時に拓真は医務室のベッドの上に居た。

「僕は…?ゴール出来たのですか?…」

「あら!憶えていないの?…貴方は見事に責任を全うし意識を直後に、失ったの。今、閉会式中よ」

「行かなきゃ…」

「それは無茶よ…三針縫ったのよ!それは医者として認められないわ」

「未だ、全うしていません!只の一言で良いのです…行かせて下さい!」

「全く…うちの娘が貴方を尊敬するのが良く解ったわ…しょうがないわね!歩ける?…」

「はい!」

少しの痛みは残っているがベッドを降りて拓真は、気丈に歩いて見せた。

「若いって凄いわね…」

「行ってらっしゃい…大人として忘れていた何かを貴方に教えられたわ。気を付けてね。無理すると傷口が開くから…」

「手当てありがとうございました…良い言葉ですね…"ありがとう"って、この言葉だけを皆に伝えたくて!」

拓真は、感謝の礼を忘れず、腰を床が見える迄折り、頭を下げ医務室を後にした。

校長が壇上で閉会の言葉を喋る中、本部のテントの中に居た生徒役員が校舎を振り帰って、信じられないものを見たかの様に呟いた。

「会長…?」

その声にテントの役員総てが気付いた。
「はぁ…"ホッ"とした。閉会の言葉が俺じゃ纏まらなかった…でも、大丈夫か?」
席を譲られる間も無く校長の話が終わった。

「皆様!会長…実行委員長が戻りました!閉会の挨拶をお願いします」

前田の声が明るくうわずった。

「行けるか拓真?もう良いよな…肩を貸しても」
本多が壇上迄、付き添い一緒に上がった。
全体から多くの拍手が沸き起こった。

「全ての皆様に先ず"ありがとう"と今、申し上げます…」

拓真の手当てをしたのは医師で藤田由美の母だった事を知らない中、言葉通りの行為を行った彼…


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